2003年の秋、大型犬二頭を抱えて引っ越し先を探していた頃。
「大型犬ですか?ペット可でも小型犬のみです。無理ですね」
「一匹なら良いですが2匹はダメです」
不動屋さんから返って来たのはこんな言葉ばかりでした。
ああ、引っ越しは無理かなぁ・・・。
と、諦めかけたある日、携帯電話が鳴りました。
「引っ越し先は決まりましたか?」
「だめだよー。無理かも」
「一軒あるんですけど」
「え?犬飼っても良いの?」
「ええ、犬おっけーです」
「でも大型犬二頭だよ?」
「良いって言ってました」
「どこ?」
「哲学の道の側ですけど・・・」
「決めた!そこにするから押さえておいて!」
哲学の道と聞いて、犬のことも吹っ飛び「作品展が出来る!」と真っ先に浮かんでしまった私。
「でもひとつ問題があるんです」
「何よ?問題って?」
「塀を隔てた裏が、私の実家なんです」
ああ、こんなご縁もあるのね。さんざんその紹介者に暴言を吐いてきた自分に一瞬後悔。でも本当に一瞬でした。
「いいぢゃん、何が問題なの?そこに決定したから。絶対押さえておいて!!!」
「いや、見てから決めて下さい。古い家ですし」
「見なくても良いよ!そこにします!その場所なら作品展が出来るし」
「何言ってるんですか?作品展なんて無理ですよ。そんな家じゃないです!古くて普通の住宅です!慌てずに見てから決めて下さい!」
作品展という言葉にひるんだ紹介者は、とにかく一度見てからと譲りませんでしたが、私の中ではとっくに決めていました。
紹介者と私の都合がなかなか合わず、やっと家を見に行けたのは年が明けた2004年の1月。
外観はとても地味で築年数不詳の古い住宅でしたが、そんなことを気にさせない雰囲気でしたし、哲学の道のすぐ側。即決したのは言うまでもありません。
それに縁側に裏庭付き、平屋一戸建て、大型犬可。
こんな好条件は探したってありませんから。
「ね?古い家でしょ?」
「良い古さじゃない」
「作品展なんて無理でしょ?」
あんた、古い家を見くびってるね?と言いかけたけど「ふふふん」と笑っていた私。
最初に見せて頂いたときは、まだ整備前で、確かに古さが目立っていました。
でも契約が済み、入居前に荷物の配置を考えたいのでと見せて頂いたときにはすっかり綺麗にして下さっていて驚きました。
「こ、ここまで綺麗にして下さったなんて。。。」
「あ、いちおう契約の条件があるんですけど、綺麗にするの大変だったみたいで、3年以上は住んで下さいとのことです」
3年?何言ってるの?一生住みたいんですけど?と、心の中でつぶやきました。
一緒に見に行ったスタッフ浅野(仮名)も「この家は良いわ。頑張って家賃払いや。あ、でもあんたがあかんくなったら、私が借りよう」
3月に入ったというのに大雪が降った2004年の春の日に無事引っ越しを済ませ、以来、家に来る人来る人「あんたが出るときは私に言って。私が借りるから」と言われてしまう日々。
観光地まっただ中にあるのに、道が少しずれている為に静かな我が家。
近所に響くのはうちのわんこたちの鳴き声だけです(苦笑)。
純和風の古い住宅。
合うのか合わないのかわかんないけど、とにかく今まで集めて来たヨーロッパのアンティーク家具や雑貨を運び込み、わんこ2頭を連れて新しい生活がスタートしました。