春財布

4月。賀茂川の桜のつぼみが膨らみ、ほんのりピンク色に染まってきた。春である。

春になると意味無く、妙にうきうきする。花壇のフリージアも、律儀につぼみをつけている。えらいえらい。冬を越したパンジーやビオラも「まかせんかい」と言わんばかりの勢いで咲いている。

ところで、春に財布を買うと縁起が良いらしい。

「春財布」→「張る財布」つまり財布が張る。お金がたくさん入る財布と言うことらしい。
逆に秋は「秋財布」→「空き財布」と言い、避けた方が良いらしい。

かもねぎの雑学辞典、浅野(仮名)が力説していた。

というわけで、ひなたは財布を新調する事にした。小銭入れのボタンがゆるくなり、札入れも亀裂が入っているのである。

「今時ここまでぼろぼろになるまで使う人も珍しい」と言われてしまう程である。

財布は毎日手にするので、出来るだけ気に入った物を気合いを入れて選ぶ。じっくり選んだ財布は、使い込むほどに愛着が湧き、ますます離れがたい存在になる。
そして新しい財布に買えた後も、ボロボロになった財布を捨てきれない私は、意味無く缶の中に溜め込んでいる。
溜め込んでどうなる物でもないのだが、なーんか捨てきれないのである。

「財布供養」でもあれば出したいくらいである。

さて、新しい財布を捜しに出かけたが、なかなか決まらない。
出来れば以前使っていたものと全く同じデザインがあれば言うことがないのだか、メーカー側としてはそれでは商売あがったりなのであろう。これでもかと、次々に新しいデザインを出してくる。結局その日は選び切れずに退散。

早く決めないと春が過ぎてしまうと、妙に焦る。デジタルな仕事をしている割に、こういう迷信じみたことを気にするひなたであった。

春財布