聴覚

犬の嗅覚はすごいらしいが、伝兵衛を見ていると時々疑いたくなる。
おやつを食べるときに、そーっと静かに食べていると気づかない。手に隠している食べ物にも気づかない。犬の視覚はもともと良くないらしいので、問題外だ。

と、あと残るのは聴覚である。

これはかなり鋭い。
遠くの方でなっている雷にぶるぶる震え、お菓子の袋を開ける音は、どんなにささやかな音でも聞き逃さず一目散にやってくる。

つい先日は、突然わんわん吠えだし、右往左往慌てている。
夫が帰ってくる時間でも宅急便の配達でもなく、お客様でも無いようだ。しかし、わんわん鳴きつつ、尻尾をぶんぶん振りながら、玄関と茶の間でテレビを見ている私の側を、行ったり来たり大慌てである。

仕方ないから玄関を見に行ったが、やはり誰もいない。もしかして、見えない人が立っているのか?と一瞬ぞっとしたが、次の瞬間「い〜しや〜きいも〜」という、かすか〜な声が聞こえてきた。

「これかよ」

伝兵衛は尻尾をぶんぶん振り、期待に満ちた表情で私の顔をじっと見ている。頭の上に「買って買って」という吹き出しが浮かんでいるような気がした。
玄関を開けるやいなや、飛び出してしまい、焼き芋やさんを呼び止める伝兵衛。「はいはい、おまけしとくわなぁ」と、気の良いおじさんは大きなお芋を2本も入れてくれた。

聴覚