かまって攻撃

留守番が続くと伝兵衛は吐く。
朝私が玄関で靴を履いていると、留守番を察知した伝兵衛は隣にやってきて「わざと」吐く。そして目を潤ませて私の顔をぢっと見る。ハリウッドも真っ青。アカデミー賞ものの演技力である。

しかし、最初の頃でこそ慌ててうろたえた私だが、こっちも学習機能はある。雑巾でさくっとふき取り「じゃあね、早く帰ってくるから、今日はゆっくり寝てて」と頭をぽんぽんたたき、とっとと出勤するのである。「ちっ」伝兵衛の舌打ちが聞こえてきそうである。

ある日、テレビが突然壊れてしまい電気屋さんに来て貰うことになった。留守番が続いていた伝兵衛は「人の愛情」に飢えていたのか、電気屋さんが来て大喜び。
自分のおもちゃのロープをくわえて、電気屋さんの後ろで尻尾をぱたぱた振りながら「良いお座り」をして引っ張ってもらえるのを待っていた。電気屋さんは「今、手がはなせへんのや」と言いつつも時々ロープをひっぱたり投げたりしてくれていた。

作業が終わって電気屋さんが帰ろうとすると、伝兵衛は次々におもちゃを引っぱり出してきて電気屋さんの気を引こうとしていた。「こんなになつかれかれたんは初めてや」と電気屋さんも別れを惜しみながら帰って行った。

この調子では、こいつは留守番の寂しさのあまり、間違いなく泥棒にでさえもなつくに違いない。困った犬である。

かまって攻撃