伝兵衛はお腹が弱い。
事務所のビルの水道水を飲むといっぺんにお腹を壊す。人間達は同じ水を飲んでもへっちゃらである。こんなデリケートなお腹の持ち主である伝兵衛は、餌も気を使う。おやつもなるべく厳選して与えなければならない。
ある日、夕方のお散歩から帰ってきた伝兵衛と散歩当番の浅野(仮名)。浅野(仮名)は開口一番「伝ちゃんむっちゃお腹壊してたけど、何か食べた?」
しかしその日はみんな、おやつを与えた覚えはない。気づかないうちに、何か拾い食いしたのかもしれないと言うことでその場は収まったが、1人ドキドキしていた者がいた。
リーダーこと藤原のりこ30才(仮名)である。彼女は最近お昼ご飯に、自作のお弁当を持ってきていた。前の晩残ったものを詰めてきているのである。お弁当を食べていると、伝兵衛が隣でじーっと見ていたらしい。そしてしかたないなぁと、最後のひとくち「ご飯」をやったらしい。
そして伝兵衛はお腹を壊した。しかし同じご飯を食べた、藤原のりこ30才(仮名)のお腹はチクリとも痛まなかった。
「伝兵衛、何を食べたんや?いったい?」と浅野(仮名)の問いかけにぼーっとしていた伝兵衛。その会話を、ドキドキしながら背中で聞いていた藤原のりこ30才(仮名)。「伝兵衛が無口で良かった」と思ったに違いない。
伝兵衛と藤原のりこ30才(仮名)。野生として生き抜いて行けるのは間違いなく「うまそーに食べるな〜」と言って、伝兵衛が機嫌良く食べているカリカリのドッグフードを、ネコババして味見をしている藤原のりこ30才(仮名)であろう。