石渡家の小太郎の場合
友人の漫画家夫妻は、去年からわんこと暮らしている。柴犬の小太郎である。
小太郎は基本的に外犬である。普段は庭で過ごし、リビングに誰かがいるときはリビングの横に来て、網戸から体を乗り出し、リビングの団らんに参加しているらしい。私が遊びに行った時も、小太郎は破られた(小太郎用にわざわざ網戸を裂いたらしい)網戸から体を乗り出し会話に参加していた。
石渡家では、小太郎は家の中に上がってはいけないルールだ。
ところが、私には小太郎の乗りだし方が、どう見ても全身家の中に上がっている様に見える。しかしよーく見ると、片足はちゃんと外の地面に「ちょん」と着いていた。「これはセーフなのか?」と小太郎に尋ねてみたら、得意そうにこっちを見た。
その精一杯伸ばした足がぷるぷる震えるのを見て、なんて可愛い奴と、頭をぐりぐりせずにはいられなかったのである。
伝兵衛の場合
普段伝兵衛は、自分のお茶碗に食べ物が入っていても、誰かが「よし」と言うまで食べずに待っている。別にしつけたわけではないのに、何故かいつの間にかそういうルールになっているようだ。
時々「よし」と言い忘れると、切なそうにお茶碗を眺めじーっと座っている。
たいていは「お手」や「おかわり」も無しに「よし」と言ってもらえるが、時々「お手」といわれることもある。
ある日、ちょっとからかってみようと、遠くの方から「お手」と言ってみた。すると伝兵衛は「お手」と言ったわたしではなく、一番近くにいた人間のそばへ走って行き、ささっとお手をしてまたお茶碗の前に座った。言った本人では無いけれど、とりあえずお手をしたから伝兵衛的には「セーフ」なのだろうか。