階段落ち

「階段落ち」と聞いてまっさきに頭に浮かぶのは、つかこうへいさん作の「鎌田行進曲」である。銀ちゃんに斬られ、大階段を転がりながら落ちて行くヤス。涙無くしては見られない名作である。
「ヤス!上がってこい!おまえは志半ばで倒れて行く勤王の志士だ!ヤス!」
たしかこんな感じのセリフを叫びながら、銀ちゃんが手をさしのべていたっけ。。。感動。

ところで、家のバカ犬伝兵衛の場合の階段落ちは、読んで字のごとく階段から落っこちるのである。

最近、毎朝歩いて出勤しているひなたは、いつもより早起きである。
私が起きると、伝兵衛は慌てて起きて後を付いてくる。そして階段を降りようとしたら、人を押しのけて先に降りようとするのである。
ところがまだ奴の体は起きていないのか、一段目を踏み外した。

どどどどどどどっ〜〜〜〜〜〜〜〜。。。。

もの凄い音とともに伝兵衛は下まで「伏せ」の格好で滑り落ちていった。

私は銀ちゃんの気分で「伝兵衛!上がってこい!」と言ったが、伝兵衛は暫く呆然として固まっていた。あまりにじっとしているので、怪我でもしたのかとちょっと心配になる。しかし奴はすぐに気を取り直し、おもむろにすっくと立ち上がった。どうやら怪我は無いようである。照れくさそうななんとも言えない情けない顔で、伏せ目がちに私を見る。

バカである。
感動の涙どころか、呆れはて、ため息が出た。

落ち着いて降りれば問題はないのだが、いくつになっても落ち着きがない伝兵衛である。人間で言えば37才くらい。子供がいてもおかしくない年頃である。働き盛りで、そろそろ家でも買うか?と言った頃ではないだろうか。なのに伝兵衛は、いつまでも少年のようである。

やはり階段には「すべらーず」が必要かと、少ないお小遣いから予算を捻出しているひなたである。やれやれ。

階段落ち