伝兵衛は、わりと言葉を理解しているようだ。
特に自分に都合の良い言葉、たとえば「お風呂、ごはん、お散歩、バナナ、パン、ちくわ」等は、ほぼ完璧である。そして都合の悪い言葉を無視するあたり、かなりわかっていると思われる。
置いてけぼりが大嫌いな伝兵衛は「お留守番」と聞くとおろおろし、この世の終わりのような声を出す。毎朝一緒に出勤する時は、玄関のドアが開くと一番に飛び出し車に乗るのだが「お留守番」を言い渡された日は、玄関でじーっとおとなしく、すがるような目で見送っているのである。
運転手が出張の場合、免許を持たないひなたは、そんな伝兵衛を見捨てて出勤するのである。
ところが、普段よってたかってちやほや甘やかされてる伝兵衛は、お留守番が3日も続くとお腹を壊すのである。そこで、3日目は仕方なく、歩いてたっぷり1時間半かけて事務所まで連れて行くはめになる。さらに普段から運動不足の伝兵衛は、30分も歩くとへたり込んでしまい、その度にお水を飲ませ15分ほど休憩する。(つまり休憩が無ければ一時間で到着すると思われる)
伝兵衛を歩いて連れて行く日は、いつもより早く支度をしなくてはいけない。水筒に水を入れていると、伝兵衛はいそいそしだす。水筒を見ると「連れて行って貰える」と分かっているのである。
何度も炊事場と玄関を行ったり来たり、大忙しである。そして私の荷物も、いつものショルダーからリュックに替えると「やっほー、やっほー」と言わんばかりに玄関のドアの前でぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。
これほどの理解力を持ちながら、テレビの前にどんと座り「伝兵衛じゃま!伏せるか退けるかして!」と言っても知らん顔するのは。。。いったいどこでしつけを間違えてしまったのか。。。時々どうしようもなく悲しくなるのである。