毛刈りの波紋

朝の散歩時間は、ちょうど小学校の通学時間にかち合う。伝兵衛は、いつも通りすがりの子供達に、適当に可愛がられている。

ある日、向こうの方から二人の男の子が歩きながら何か言っていた。どうやら言い争いをしているようだった。声が聞こえるくらいまで近づくと

「ゴールデンやって言うてるやろ」
「ちがう、あんなゴールデンはおらん」
「でもあのおばちゃんいつもゴールデン連れてたもん」
「絶対違う」

どうやら言い争いの原因は伝兵衛のようだった。私がそーっと近づき「ごーるでんやでえ」と言うと「ほらみてみ」と一人の男の子は勝ち誇ったように言った。

「え〜、こんなゴールデンみたことないわ。へんなのお」
「ごめんね。散髪したらこうなってん」
「ふうん、ちゃんとグルーミングしたらなあかんで」

小学生の口から「グルーミング」という言葉を聞いて、ちょっとひるんだひなたであった。

別の女の子が近づいてきて「あっ、伝ちゃん。わあ散髪したんや。伝ちゃんは可愛いなあ」と言いながら、何犬かわからなくなった貧弱な伝兵衛を撫でてくれた。

私は心の中で「いい子だねえ」と、その女の子の頭を撫でてあげた。

毛刈りの波紋