朝、わたしが歯磨きをしていると必ず伝兵衛がやってきて、洗面台の上に顔をのせてじーっとこっちを見ている。
とてもまっすぐ見つめるので、なんだか照れくさいなあと思いながら歯を磨いていた。
ある日、伝兵衛に歯ブラシを近づけてみた。すると鼻をひくひくさせ、尻尾をぱたぱた振って歯ブラシを匂っていた。そのうち歯ブラシを嘗めそうになったので、慌てて取り上げた。
いくら伝兵衛を可愛がっていると言っても、歯ブラシの共用はお断りである。
そこで、買い置きしてあった歯ブラシを伝兵衛用におろしてやった。
水で湿らせ、口の中に突っ込み歯磨きをしてやった。
嫌がって逃げると思っていたらとんでもない。歯を食いしばったまま尻尾をぱたぱたさせて喜んでいる。
そういうわけで、わたしの朝は、伝兵衛の歯磨きで始まるのである。