伝兵衛は、布団の上で仰向けに寝たり、酔っぱらって階段を踏み外したりしても、やはり「犬」である。
散歩の時にはちゃんとくんくんと匂いを嗅いで、決まったポイントで用を足すのである。しかしたまーにそのポイントが、よその家の玄関先だったりすることがあるので、そういう所で足を上げそうになったらぐいっとリードを引っ張り、道ばたの方でさせるようにしている。
それでもいくら引っ張っても絶対ゆずらないポイントがある。それはお地蔵さんの前である。
そこのポイントはかなりの数の犬たちが利用しているらしく、ブロックがシミになっている。とは言え、何となく「ばち」があたりそうで気が引ける。
そういえばまだ弟が小さかった頃に母が、外でトイレをしたくなった弟をかかえ「みみずもカエルも堪忍な」と言ってから用を足させていた。こう言えば、みみずとカエルにシッコがかかっても「ばち」が当たって、おちんちんが腫れなくて済むんだそうだ。
伝兵衛の散歩道は殆どアスファルトなので「みみずとカエル」に気を使わなくてもいいが、お地蔵さんにはどういえば良いのか思いつかないので、とりあえず「お地蔵様、ごめんねごめんね」と心の中で繰り返して、足早に立ち去っている。