指定席

伝兵衛はお出かけが大好きだ。(と言うよりも、お留守番がきらい)
車のドアが開くと誰よりも先に飛び乗り、必ず助手席に座る。私が助手席に座ろうとしても、絶対に譲ってくれない。それどころかたまに奴より先に車に乗って助手席に座っていると、強引に押しのけられ、私は仕方なく後部座席に移動する。

助手席に落ちついた奴は、窓を半分くらい開けてもらって顔を出し、風に鼻をひくひくさせている。「わあ可愛いわんちゃん」などという声が聞こえようものなら、さらに身を乗り出し「はこのり」状態になり、尻尾をぱたぱたと振る。

すると、車内に溜まっていた「伝毛」がふわふわと舞い、同乗している人間達は息をすると「伝毛」を吸い込んでしまうのである。

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