お隣の玄関のドアの開く音がすると、伝兵衛は大急ぎでガレージへ飛び出し、塀越しに顔を覗かせ頭をなでて貰う。塀の高さは1メートル20センチあり、伝兵衛が背伸びをしてやっと顔が出る程度である。
見ていると足がぷるぷる震えてかなりきつそうであるが、これが結構かわいいと近所の方々にウケがいい。
「塀のブロックを一段はずすしてやったらどお?」見かねた近所のおばさんに言われたが、塀を工事するのは大変だし、お金もかかる。だいいち塀はお隣との共同所有物なので、そんな勝手なことは出来ない。
そこで踏み台を置いてやることにした。
15センチくらいの高さの木箱を4つ置いて、その上に1メートル四方の分厚い板を置いた。なかなか立派なお立ち台になった。試しに伝兵衛を呼んで台の上に上げてみたら、台が塀のコンクリートに当たって「ギシッ」と嫌な音をたてた。
伝兵衛はその音に怯えてしまい、隣を覗くのも忘れて、台から飛び降りた。台の下に布を敷いて、さらに上にもマットを敷いて音が出ないようにしてやったにも拘わらず、伝兵衛は二度とお立ち台には立たなかった。
うーん、企画倒れかと思っていたら「伝ちゃんええテーブル置いてもろて」と、近所の人がおやつや果物を置いて行くようになり、今ではすっかり伝兵衛へのお供え物置き場になってしまった。