近所づきあい

お天気が良い日にはガレージに柵をして、伝兵衛を遊ばせてやる。すると近所の小学生達が伝兵衛を見つけて寄って来る。
伝兵衛の方も子どもが寄ってくると尻尾をぱたぱた振って大喜びする。家の前が急に賑やかになる。

ある日「なんて言う名前かなあ?」と言った声が聞こえてきた。見ると小学校2年生くらいの二人の女の子がこちらの様子を伺いながら伝兵衛の頭をなでていた。
私は仕事中だったので、しばらく放っておくと「ゴールデンやしゴルちゃんかなあ」とか、それぞれ思いつく名前を言い合いしている。そしてそれぞれ自分たちの付けた名前で呼び出す。

聞き慣れない名前で呼ばれてきょとんとしている伝兵衛の姿に、仕方なしに家の中から犬の名前を教えてやった。
すると次の日「伝兵衛ちゃん!」と叫びながら近づいて来る子どもがいた。昨日の子ではない。後から来た子も同じように「伝兵衛」と名前を呼んでいた。
子供の間でも噂という物はすぐ広まるらしい。

さらに散歩で近所を歩いていた時、後ろから車がやってきたので道の端に寄ってじっとしていると、車の窓が開き「伝兵衛や!あの犬伝兵衛って言うんやでえ!」と、全く見覚えのない子が、力一杯叫びながら身を乗り出しこちらを指さしていた。
そしてすれ違ったおばさんにまで、「あら、でんちゃん」と声をかけられた。いつの間にか、有名になった伝兵衛であった。

しかし私は、ここへ引っ越してきて5年。まだお向かいの人の顔も知らない。

近所づきあい