不遇な子犬時代

くるみがやって来たのは2003年の秋。

それはそれはかわいらしいゴールデンの子犬ちゃんだった。
のだけど、先住の伝兵衛さんがおられた事務所では、可愛い子犬より伝兵衛の方が人気だった。

だってくるみちゃん、吠えるんだもん。

くるみが来てからというもの、伝兵衛はますます爺くさくなり、日毎にまったりしていた。
今にして思えば、あのまったりは、すでに癌に冒され弱っていっただけだったかもしれないけれど、それでも毎日くるみとぴったりくっついて添い寝したり、遊んでやったり、なんとなく面倒をみてやっていた気のいい爺さんだった。

そしてくるみと言えば、とにかく伝ちゃんに「かまって!かまって!遊んで!遊んで!」と、伝ちゃんの後を付いて歩き、時々伝ちゃんのご飯を奪い、伝ちゃんをかまおうとする人間の間に割って入って「私が先よ!」と主張して嫌われていた。

普通だったらちやほやされる「ゴールデンの子犬」が、何故か「あんた!伝ちゃんを噛まんといて!」と叱られたりして、意外に不人気だったくるみ嬢。(笑)
そしてやたらめったら吠え、傍若無人に拍車がかかり、ますます人気は下落した。

「伝ちゃんはこんなに可愛いのに、この小娘はほんまに憎たらしい」とまで言われるしまつ。
こうして、日々あびせられる非難、罵倒により、くるみ嬢の性格は順調に歪んでいったのである。

伝爺とくるみ女王様